2018.08.10
重症な蕁麻疹に対する新しい治療方法についてー新薬「ゾレア」を徹底解説ー
こんにちは。TMクリニック西新宿院長のおかだりかです。
重症な蕁麻疹(じんましん)に対する新しい治療方法として、新しい作用機序をもつ注射製剤が追加されました。もともと重症な気管支喘息に使われていた薬ですが、蕁麻疹にも効果があることがわかり、2017年3月から使用が可能となりました。適応は、原因がはっきりしない慢性蕁麻疹の方になります。これまでいろいろな薬を試しても症状が治まらなかった重症な方でも、効果が得られる場合があります。ここでは、重症な慢性蕁麻疹に対する新しい治療方法である、新薬「ゾレア」について説明していきます。
重症な蕁麻疹(じんましん)とは
典型的な蕁麻疹(じんましん)は、かゆみを伴う赤い皮疹が突然現れ、数時間で消えるという症状が現れます。この症状が4週間以上続く場合「慢性蕁麻疹」、4週間以内に改善する場合「急性蕁麻疹」と分類します。慢性・急性を問わず、治療の第一選択は「抗ヒスタミン薬」になります。抗ヒスタミン薬のみで症状が改善する場合が多く、急性蕁麻疹の場合は、数日〜数週間程度で薬をやめられることが多いです。
しかし、抗ヒスタミン薬だけでは症状が抑えられない場合もあり、その場合は抗ヒスタミン薬を倍量まで増やします(例えば、1日1錠の薬であれば、1日2錠まで増やす)。それでも改善しない場合は、他の補助的な薬を追加します。補助的な薬とは、H2受容体拮抗薬、抗ロイコトリエン拮抗薬、トラネキサム酸、漢方薬などです。抗ヒスタミン薬の倍量に加え、補助的な薬を数種類内服しても、蕁麻疹が治まらない重症な方もいます。慢性蕁麻疹は、夕方から夜にかけて症状が出やすく、かゆみが強い場合は眠れないなどの生活にも支障をきたす場合があります。
これまでは、抗ヒスタミン薬と補助的な薬を多剤併用しても症状が治まらない場合は、ステロイドや免疫抑制剤の追加が必要でした。ステロイドや免疫抑制剤は、効果は強いですが、一方副作用もあります。処方する医師としても、命に直接関わらない蕁麻疹に対して、強い副作用を生じる可能性がある薬は、使用に躊躇することがあります。また、長期に使用することは難しいこともあり、症状のコントロールができないケースもありました。
このように、多くの飲み薬を使っても症状が抑えられない重症な蕁麻疹に対する治療は、これまであまり選択肢がありませんでした。そこで、2017年3月に新薬「ゾレア」が登場しました。
新しい薬「ゾレア」ー作用機序と効果、副作用についてー

重症な蕁麻疹に対する新しい薬「ゾレア」
ゾレアの作用機序と効果
ゾレアは、もともと重症な気管支喘息の患者さんに使われていた薬です。これまでの飲み薬と異なり、注射製剤です。病院やクリニックで、ワクチン注射のように腕などに皮下注射をする必要があります。さて、新しい治療方法として期待されていますが、どこが新しいのでしょうか。
これまで最も効果が高いとされていた「抗ヒスタミン薬」は、その名前の通り、「ヒスタミン」という成分をブロックする薬です。ゾレアは、ヒスタミンを作り出す元になるIgE(アイジーイー)をブロックする薬です。つまり、ヒスタミンよりもさらに「蕁麻疹の元の原因」を抑える作用がある薬とも言えます。よって、重症な蕁麻疹の方に効果があるとされています。
実際に、ゾレアの効果は、プラセボ(偽薬)と比較した臨床試験によって確かめられています。抗ヒスタミン薬で効果が得られなかった12歳以上の慢性蕁麻疹の患者さんを、ゾレア群とプラセボ群に分けて比較したところ、ゾレア群のほうが有意にかゆみや皮疹を抑えたという結果が出ています。
ゾレアの副作用
慢性蕁麻疹の患者さんにゾレアを注射した際に、生じる副作用について説明します。もともと気管支喘息で使用されていましたが、その際、副作用としてアナフィラキシー(注射したあとに、皮疹がでたり、呼吸が苦しくなったりする)の報告がありました。しかし、慢性蕁麻疹の患者さんでは、臨床試験の段階では、アナフィラキシーのような重篤な副作用はほぼみられませんでした。最も多くみられた副作用は頭痛や、鼻閉感でした。また、注射を打った部位が赤くなる「注射部位反応」もみられました。
慢性蕁麻疹に対してゾレアを使用した場合の副作用は、気管支喘息と比較すると少ないと言えるでしょう。しかし、使用する薬は気管支喘息と全く同じものになるため、アナフィラキシーが生じる可能性はゼロとは言えません。よって、初回治療時は、投与後1時間程度は院内で経過をみる必要があります。
実際のゾレアの治療とは
慢性蕁麻疹の患者さんに、ゾレアを使用する実際の様子を説明していきます。まず、ゾレアは、月1回皮下注射で投与します。これまで飲んでいた治療薬は、原則そのまま継続する場合が多いでしょう。上記で説明したように、1回目の注射の際、注射したあと1時間は院内で経過観察をする必要があります。
上で説明した臨床試験では、12週までの投与で治療効果が判断されています。よって、まずは12週(3ヶ月、つまり3回の注射)は継続し、蕁麻疹の状態を評価したほうがよいと考えます。その後、改善した場合は、漫然と継続するのではなく一旦中止し、経過をみることになることが多いです。
ゾレアは、健康保険が適応になる治療法ですが、薬剤代がとても高価です。1回あたりの薬剤費は、約27000円(3割負担)になります。通常、ゾレアは1ヶ月に1回、3ヶ間継続しますので、トータルの薬剤費は9万円程度(3割負担)になります。決して安い金額ではありませんので、使用する判断は適切に行う必要があります。
まとめ
重症な慢性蕁麻疹に対する新しい治療薬である「ゾレア」について、説明してきました。これまでの飲み薬とは異なり、注射製剤です。何種類も薬を飲んでも、満足する効果が得られなかった患者さんにとっては、改善が期待できる薬と言えるでしょう。しかし、すべての患者さんに効果が得られるわけではなく、副作用もあります。また、高価であり、経済的な負担を感じる方もいるでしょう。自分の蕁麻疹の状態をしっかり把握して、かかりつけ医と一緒にゾレアを含めた治療方法を考えて行きましょう。

皮膚科専門医
岡田里佳
2008年名古屋市立大学医学部卒業。 内科を中心に初期研修を行い、その後皮膚科へ進む。大学病院での勤務を経て、皮膚疾患を合併しやすいアレルギー・膠原病診療を経験するため、約3年間内科医として勤務。その後大学病院に戻り、急性期・慢性期の皮膚疾患を幅広く経験した。
資格:日本皮膚科学会認定皮膚科専門医 日本内科学会認定内科医 日本リウマチ学会認定リウマチ専門医 日本アレルギー学会認定アレルギー専門医
カテゴリ: 蕁麻疹